上々の天気となった当日、18:10に長崎入りした私は
大急ぎで会場へ。前方の席をキープ。一通り周りを見渡す。
2台のパワーアンプはヒートアップ十分で、陽炎を立たせている。
舞台で出番を待っている「鳩」も、深紅の「ギル」も、「マスター」?
も、うたいたくて歌いたくて、ウォンウォン胴鳴りを発している。
まあ落ち着け!今からオーバーヒートしてどうするんだ!!

突然、地獄の底から天を切り裂く地響きが・・・
リズムの嵐が吹き荒れた後、古井戸2000の登場。
意気込む風でもなく、かといって醒めている風でもなく、
あくまでも淡々と登場。
ワオー−−私にとって20年ぶりの加奈崎さんだ!
26年ぶりの古井戸だ!!  頭の中は真っ白に・・・・
時の空白を埋めるかのような「750円のブルース」・・・
ついに、今夜が始まっちまった。
でも感傷に浸っている場合じゃあないぜ!
容赦のない顔面へのストレートパンチ。声が飛んでくる!痛い!痛い!

失礼を承知で言えば、(おっ!今夜の加奈崎さん、声が出ている!!)
最近のCDを聞いていてくすぶっていた私の不安はぶっ飛んだ。
でも、このままヒートアップしつづけて最後まで大丈夫なのか?
橋本さんもギルを泣かせまくっている。

今夜はすごいことになりそうだ!

「ハロー長崎〜〜」イェー!観客の拍手、拍手。
長崎の皆さんは反応がいいゾ。
そんな余韻に浸っていると・・
おもむろにあの和音が会場に響き、消えていく・・・
まるで今までの熱気がうそのように、緊張が会場を走る。
石の静けさだ・・

”スイトピーを・・あげるよ・・”
すみません。私この歌あまり好きじゃなかったんです。
(ふられちゃったの・・ボク悲しいの・・)
でも、最近の加奈崎さんは、
(うらー、ふっちまったけど、オメー大丈夫か?)
(でも、ごめんな)と、まるで正反対の解釈で歌っていると
勝手に思っているのは、私だけだろうか?

あまり好きじゃなかったといっても、
立ち読みで花言葉の本を読みまくったのは、悲しきファンの性。
恋の楽しみ・・・とかいろいろ書いてあったな・・
でもこの楽曲は、「大雪のあとで」と合曲したらとてつもないパワーを発揮する。そう、2曲で1曲なのだ。

♪がーん♪「大雪のあとで」が始まった。
(私には、最初のギターのひき下ろしの音が、ジャーンではなく、
がーんに聞こえる)

まいったな。目の前が少しかすんできたぜ。
こうなったら、懐メロでも新メロでも、そんなことどうでもいいや!
そういう次元の問題じゃあない。
いいものはいい!つまらないものはつまらない!これもんだ!!

この楽曲の私なりのポイントは「ひらがな」。
♪10年ぶりのー♪ではなくて、♪ぢゅうねんぶりのぉー♪なのだ。
加奈崎さんは、今夜もひらがなで歌ってくれた。
橋本さんのギルも、重くなく重い危ういバランスで唄っている。

もうこれで、十分今日の元は取った。
え?まだ聞かせていただけるんですか?
私達は、なんと言う幸せものだ!

だらだらと長くなってすみません。
皆様、気になさらずどんどん先にいってください。お願いします。

当日メモを用意して、曲目、MC、曲目ごとの使用ギター名などを
克明にチェックしようとかまえていたのだが、
そんな余裕など、とてもじゃないがなーい。
で、MCの内容も、ほとんど覚えてナーイ。
だって、冷静なようで、実は頭の中はずーっと真っ白だったんだもーん。
音を全身に浴びることで精一杯だったんだもーん。

で・・・
痛烈で、ストレートで、そして心あるものは思わず(あっ!自分の事だ)とドキッとしてしまう「逃げるバカ」が始まった。
ファンキーなギルと、
ルーズなようで実はタイトすぎるほどタイトな鳩と、足踏みがからむ。
会場の床も鳴っている。
本当にこのハイテンションで、最後まで大丈夫なのか?
その昔フォークシンガーと言われ、
今、演歌やBGMに走っていったたくさんの人たちのような
あんなふうに手を抜いて歌ってもいいんですよ。と
要らぬお世話を焼きたくなるほどアツイ!!

「逃げるバカ」が突き抜けたあと、しばしのMC。ほっと息をつく。
が、ハイテンションはとどまるところを知らない。

ここで柳吉の登場。

フラットマンドリンを持って待機している橋本さんに
ビリケンからはじまってQ/Cにいたるまで
チクリチクリと攻め立てる。
例の、陰湿ないじめの始まりだ。
橋本さんは馬耳東風。うーん。ナイスなからみ・・・

一通りいじめて、少しストレスを解消したあと、息を止めて・・・
そして始まった「ちどり足」。

この詩の良さがわかったのは30歳を過ぎた頃・・
(だって、酒を飲み始めたのは30歳を過ぎたからだったんだもーん。
・・・失礼致しました)
でも、その意味がわかりだした頃から、心から好きななった。
「ひとりの祭りには・・・」この祭りはどんな祭りだったんだろう?
「おめでとう、おめでとうと・・・」ちっともおめでたくない。
悲しいとか、さびしいとか、
そんなありきたりな言葉は一言もないのに
それ以上の悲しさ、さびしさ、そして孤独。
都会でも田舎でもない、青春でも中年でもない、
ひとりの人間としての孤独・・・
永遠のテーマです。

「ちどり足」の余韻あと、
これも黄金のメドレー「窓の向こうは冬」がおもむろに始まる。

やさしく、丁寧に、言葉をかみしめるように唄われるその声に、
この楽曲に対する加奈崎さんの特別な愛着を感じる。
私はその昔、この詞の内容と曲調に、今ひとつの違和感を感じて、
彼女が一通り甘えて、そのあとに何食わぬ顔で別れ話を切り出す・・
そんな屈折したイメージで聞いていた。が、
こうやって生で聞き返すと、まるで、炬燵の中で白昼夢を見ているような
そして、現実と夢の中をさまよっているような、けだるく、甘酸っぱい・
そんな不思議な感覚がしてくる。  新たな発見だった。

しばしのMCのあと、鳩がリズミカルに踊りだした。
(あれ?こんな曲聞いたことがないぞ!?・・あれ?あれっ?)
加奈崎さんは、6弦を力強くカッティングしながら得意そうな顔をしている。
「あの頃から、こんなカッコイイぃ演奏をしていたんだぜ」
「どうだ!カッコイイベ?」    うん!うん!
思ったより賢い、と人に言われている私は、途中から、
この楽曲がなんという楽曲かわかってしまった。
これがあの「夜明けのギャンブラー」か!!!
その昔、「あたし難破船」と並んで幻の曲と言われた(言われていたっけ?)
あの「夜明けのギャンブラー」だ!
初めて聞いた・・はぁー感無量。うるうる。
薫さん、リクエスト有難うございました。
しかし、シブすぎるー−

渋いところでもう一発。
圧倒的迫力の「明日引っ越します」・・
音圧で、窓ガラスが共鳴するほどの迫力。
音がうねって押し寄せる。津波ではない。うねりだ!
鳩も、うねりに翻弄される小船のように、きしんで悲鳴をあげている。
「ガシッ」
切れた・・・
4弦だ・・・
エンドピンまで抜け落ちた・・・
すさまじい・・・

橋本さんも、この楽曲の怨念が乗り移ったかのようにかき鳴らす・・・
2人の体が波打つ・・・エンドレスのプログレだ。
正直、早く終わってくれと思う。
聞いているほうの身が持たない・・・・
演奏が終わってほっとする楽曲も珍しい。

そして、渋さでは一歩も引けを取らない「セントルイスブルース」。
これでもか、これでもかと迫ってくる。
ブルージーでいて、チョーキングを多用しない
切れのいいリードギター。
初代の人は、少しはまりすぎていたんだよな・・
などと、大胆で生意気な感想を一言。

そして、この楽曲の演奏で、身震い、鳥肌の「黄昏マリー」への流れは
完全に出来上がったのであった。

♪ぼろ〜ん♪わたしさっきから〜♪
えっ?なに?・・・・     完全に意表をつかれた。
まさか、こんなに絵になる場所で、こんな楽曲が聞けるなんて・・・
本当に夢みたいだった。
場末のバー、港の汽笛、港の女、決まりすぎだぜ!
2人の演奏の後ろに、間違いなくピアノトリオが見えた。

そして、遠く異国が見えた。
長崎の街がそうさせた。

加奈崎さんは、この曲でもウラ声を出さなかった。
あくまでも、表声(?)に徹した。
その決意と覚悟を改めて思い知らされた。

なお、この楽曲を含む「酔醒」は、ぜひ質の良いオーディオシステムで
聞いてほしい。ラジカセが悪いと言うわけではないが、
(本当は悪い。悪い音で聞くと、感性まで貧困になる)
近くにオーディオショップがあれば、とりあえず、デモ中のシステムで聞いてほしい。
きっとびっくりするはずだ。
それが無理なら、ラジカセでもいいから必ずヘッドフォンで聞いてほしい。 
目を閉じて、ウィスキーでもちびりちびりやりながら・・・

ステーションホテルあたりで、涙の一つも出ないあなたは少し疲れている。
黄昏マリーになって、涙も出ないあなたは・・・・
すでに爆睡して、夢の中にいる。

さて、お次は橋本さんのソロコーナー。

加奈崎さんが、舞台袖に引っ込む。
「御大はもう歳なので、楽屋で点滴をうっています。小1時間は出てこれないので、
その間楽しみましょう」と、ボディブローを1発。
そして「カレーライス(猛毒)」をはじめる。
エンケン、かまやつ、何でもありの無国籍交響曲。
自由奔放なヴォーカルに、じゃじゃ馬ギルがのっかかる。
過激な楽曲なのに、根底にはやさしさが漂う。
オープンD(?)にカポ3か・・帰って試してみよう!

加奈崎さん再び登場。
柳吉の自慢話をかます。
柳吉を抱いたお姿は、クラプトンよりさまになって(?)いますぜ!
少し小ぶりな音だが、1本筋の通った柳吉と一緒に「遥かなる河」。
この楽曲は、さりげなく歌われているが、実際は本当に難しい楽曲。
こんな曲、まともに表現できる人などそうざらにはいない。
作った人間も人間だが、きっちり唄いきる人間も人間だ。

「忘れない・・忘れるはずが無い・・」
つぶやくように、自分に言い聞かせるように始まった「さらば東京」。
実際に見た経験も無い東京の風景が、目の前のスクリーンに広がる。
まるで、ドキュメンタリーフィルムでも見るように、鮮やかに映し出される。
それも、全部夜の風景・・・
青山通りのヘッドライトの波、東京タワーのイルミネーション、
リサイタル後のがらんとした久保講堂。
都会の喧騒の中で、疲れきってしまったうしろ姿・・・
でもこの楽曲は、決して、思い出を残し去っていく・・そんな後ろ向きの楽曲ではない。
人生には、避けて通ることのできない節目がある。
その節目節目にやっと、自分の人生、家族の人生、それら全部を含めた
人生の中の自分を見つめ、振り返る。そして明日を見る。

絶望と希望・・・
全ての想いが、たった一言のこの言葉に凝縮され、光を放つ。

     「さらば東京」

今夜の「さらば東京」は、鬼気迫る鎮魂歌だった。
東京と、東京での生活、何よりも家族に対する、魂と、感謝のこもった
鎮魂歌だった。
アルバムヴァージョンでは、魂がこもっているとはとうてい言えない、スタジオワークを事務的にこなしただけとしか感じられないボトルネックを延々と聞かされて、
へきへきしていたので、(失礼しましたー)
今夜のシンプルな「さらば東京」は、私の忘れかけていた魂をも共振させた。

ソロコーナーの後は、重い、ひたすら重い「東京脱出」。
やるせない閉塞観と焦り・・・その中からの脱出。
これは、「東京脱出」でもあり「現状脱出」でもある。
十分にパワーは出ているにもかかわらず、沈み込む2人のギター。
そして問い掛ける(もう30年たったのに・・・)
毎日の忙しさを言い訳に、その問いかけから逃げている・・・
(もう30年経ったから、俺はここにいる!ノーリターン!)
その自信に満ちた答えにハッとする。

間髪をいれず更に問い掛ける。
(やせ我慢ばかりで、もう半年過ぎたが・・)
その昔、無気力、無感動、無関心と言われたときがあった。
今の若者達は情けないと、世の大人たちに言われたときがあった。
そうだったかもしれない。
心を襲う理由の無い不安・・・
得体の知れないどす黒い雲が、心の中に立ち込める・・・
でも、そんな心の中を表す言葉が見つからない。
だから、大人たちに反論できない・・・苛立つ・・
そんな時聞いた加奈崎さんの絶叫「なんとかなれ」。
全面的に共感した。そして、来る日も来る日も歌った。
(なんとかなれ・・・)投げやり的な言葉だが、加奈崎さんに遠くから
(なんとかなる。だから頑張れ)と励まされているようで、
何度も何度も救われた。

もしあの時、この楽曲に出会わなかったら・・・
加奈崎さんの歌声に出会わなかったら・・・
そう思うとぞっとする。
そんな思い入れを感じたのか、出会った頃と同じ、いやそれ以上の
パワーで心の叫びを搾り出したもらった。
このまま抜け殻になってしまうのではないかとさえ思った。

いよいよ最後の曲となった。
流体企画とスタッフの皆さんに対する感謝の言葉に、会場しんみり。
そして拍手、拍手。
手作りは暖かい。

「それではさいごに・・・」    シャリーン
このD6の和音の響きに、何度涙しただろうか。
この楽曲だけを肴に、いくつの夜を語り明かしただろうか。
この楽曲の情景と高校時代の情景が、どうしてもオーバーラップしてしまう。スナップ写真をめくるように、断片的にゆっくりと・・・
多くを語るまい。
この楽曲を愛してやまないみんなの思い入れをを壊さないためにも・・
今夜も、涙腺が緩んでしまった。

たくさんの想いをのみ込み「ポスターカラー」が終わった。
(あー満足・・ん?ちょっ、ちょっと待ったぁー よく考えたら、
にゃーさん夫婦のリクエストがまだだべ、加奈崎さん!)

まあまあ慌てさんな、という感じで、アンコールの手拍子の中再び登場した加奈崎さんはおもむろにはじめて下さいました。「バラ−ド」。
疲労こんぱいのか細い身体を絞るようにして出す声は、すでに限界が近いのか少し痛々しい。
それでも、この難しい楽曲を ウラ声に走るわけでもなく、あくまでも
まっすぐに唄いきり、(こりゃやばいぞ・・)と思って、はらはらしていた私を見事に裏切って(?)くれた。(^^)

さあ!こうなったら最後まで見せてもらいましょう。5?歳のパワーを!

カッティングの音も歌声の一部となっている「MY R&R」に変わる。
また声が出てきた。
本当は疲れきっているはずなのに、(あらよっ!!ってなもんで、
まだまだいくよー)とサングラスの奥の目が笑っている。(ように見えた)
フェイドアウトの緊張感で息が止まりそうになる。
カッティングの音がちいさくなるにつれて、からだが背もたれを離れ
前へ前へと傾く。S極とN極のようだ。
これが限界だというところで演奏が終わった。
ため息をひとつついて、元の姿勢に戻る。
ふー、こっちの身ももたないぜ、まったく。

さあ、最後の最後「幸せな街」だ。
石の決意と覚悟を心の奥に隠し、しっとりと、ギラギラと唄う。
橋本さんのギルも唄い続けている。
本当に絵になる風景だ。
やがて、流れ出た溶岩が、ゆっくりゆっくり冷えて石に帰っていくように、ライヴの幕は下りた。

「サンキュー長崎!!」
こちらこそありがとうございました。
良いものを見せていただきました。

小澤さん、お疲れ様でした。
スタッフの皆様、お疲れ様でした。
そして、本当にありがとうございました。

この後、ずうずうしくも押しかけた打ち上げの酒がうまかったことは
言うまでも無い。ジャンジャン。